プログラム開発の背景

特別支援教育支援員のニーズから、子ども支援のスキルを考える

「特別支援教育支援員の数は年々増えている。学校現場での支援が厚くなるのは良いことだけど、支援員の採用は資格・経験不問という自治体があったり、なのに説明も研修もなくポンと現場に配属され、その後も研修という研修もない、という声も聞こえてくる。そういえば、『教員研修』とはよく聞くけれど、『支援員研修』はあるのだろうか? あらかじめ教育や特別支援教育に一定の知識や現場経験のある教員には研修機会が多くあって、資格経験不問の支援員は機会がない、というのは、なぜだろう?」

“こどものミカタ”養成講座は、この素朴な問いからスタートしました。

これからの社会を担う子どもたちを『教育』していく場である学校現場は、教員をはじめ、学校管理職、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等々、免許や資格を持ったスペシャリストが集まり、教育実践を行っています。
その中で、「資格・経験不問」で採用されることさえある特別支援教育支援員だけが、異なる扱いをされているように感じる。この違和感は果たして、正しいのか?
現場の声を聞きたい、と、私たちは2016年11月から2017年8月にかけて、全国の現職の特別支援教育支援員を対象にインターネットでアンケート調査を行いました。

特別支援教育支援員アンケート(2016.11〜2017.8実施) 集計結果

たいへん少ない回答数でしたが、「支援員には研修機会が足りないのでは?」という仮説がハズレではないこと、また、回答者のほとんどが、支援員として勤務するにあたり必要な専門知識を学びたいと思っている様子が伺えました。

こうしたことから、”こどものミカタ”養成講座のプログラム開発にあたっては、対象者のモデルを【特別支援教育支援員】に置きました。理由は、「たくさんの子どもが集まる場」(学校)で、「必要なスキルを身につける機会がない/少ない状況で子どもの支援に関わっている人」として、母数が多く、わかりやすいモデルだからです。

ですが、このような条件で子どもと関わる仕事は、他にも多くあります。
たとえば、学童保育や放課後子ども教室、放課後等デイサービス、フリースクールなどの不登校支援、療育教室などの発達支援、また、一般の塾やお稽古事やスポーツ教室、などなど。
このプログラムは、そうした場で子どもと関わる仕事に携わっている広い範囲の方に共有できるものです。

以下に、プログラム開発の背景をまとめました。
※ブルー文字の見出しをクリックすると内容を表示します。

【特別支援教育支援員】に求められている役割は?
平成19年度(以下、年度は平成表記)、学校現場において「すべての子どもが必要な支援を受けられること」をめざして、特別支援教育がスタートしました。同時に、【特別支援教育支援員】(以下、「支援員」と表記)が制度化され、学校現場に配置されるようになりました。

同年6月に文部科学省初等中等教育局特別支援教育課が出したガイドブック『「特別支援教育支援員」を活用するために』には、支援員の役割として、次のことが書かれています。

(2)「特別支援教育支援員」の具体的な役割
小・中学校において、校長、教頭、特別支援教育コーディネーター、教師と連携の上、
1 基本的生活習慣確立のための日常生活上の介助
2 発達障害の児童生徒に対する学習支援
3 学習活動、教室間移動等における介助
4 児童生徒の健康・安全確保関係
5 運動会(体育大会)、学習発表会、修学旅行等の学校行事における介助
6 周囲の児童生徒の障害理解促進

以上は項目のみの抜粋ですが、上記リンク先に記載されている詳細を見ると、支援員の役割として想定されている職務には、一定の専門知識やスキルが求められるものも少なくありません。

【特別支援教育支援員】の現状は、自治体によってさまざま
ところで、支援員の配置にあたって、国は、平成19年度に小・中学校、21年度に幼稚園、23年度に高等学校への地方財政措置を開始しました。
つまり、【特別支援教育支援員】は文科省の制度ではありますが、採用や管理など、実際の運用は各地方自治体が国からの財源の配分を受けてそれぞれ独自に行っている、ということです。採用基準や、配属前後の研修体制も、それぞれの自治体の判断で行われているため、自治体によってばらつきが大きい制度になっているのが実情といえます。

いま、インターネット検索で「特別支援教育支援員 採用」等のキーワードで検索すると、自治体が公式サイトで募集していたり、ハローワークや民間のアルバイト募集サイトにも支援員の求人が出ています。そして、募集条件は、教員免許を求めるものや、教職などの経験者に限定または優遇するものから、経験や資格「不問」を掲げているものまで、実にまちまちです。
先述の「期待される役割」を考えれば、専門知識の必要な場面も少なくない仕事でありながら、経験不問で採用され、採用後の研修やトレーニング体制も自治体ごとに異なるため、十分なスキルをつけて現場に配置されているか、という点も不明です。

【特別支援教育支援員】に必要なスキルとは?
文部科学省のデータによると、19年度に約250万人からスタートした支援員の制度は、28年度には530万人にまで増えて来ています。年々ニーズが高まる中、支援員の「数」はもちろん確保されて行かなければなりませんが、同時に、どんな児童生徒を担当しても困らない知識やスキルのブラッシュアップが行われなければ、現場で困るのは当の支援員であり、ひいては、適切な支援が得られない子どもたちでもあります。

特に、一般的なステレオタイプではうまくいかないことも多い発達障害のある子どもたちを支援するにあたっては、少なくとも最低限の「見立て方」や「手立てのしかた」について学ぶ機会は必須であると、私たちは考えます。